笂圭\Y句

August 0382011

 点滴の落つ先に見ゆ夏の雲

                           坂東彌十郎

、歌舞伎座は再建中で、しばらく更地での工事がつづいている。木挽町界隈は淋しい限りである。掲句は、近年、大柄な存在感で売り出してきている彌十郎の句として、繊細にしてスケールの大きい夏らしい姿がしっかり決まっている。点滴と作者の大柄な体躯との対比に、一種の好もしさを感じる。タク…タク…とゆっくり落ちてゆく点滴のしずくの向こう、病室の窓越し、青空に白い雲がでっかく鮮やかに見えているのだろう。病院ネタにしては暗さが感じられず、カラリとしていて後味がいい。一刻も早く健康を取り戻し、点滴から解放されて夏雲のほうへ出かけて行きたい、そんなはやる気持ちがあふれている。彌十郎によれば、古くから歌舞伎と俳句は深いつながりがあって、十五代目羽左衛門、六代目菊五郎、十七代目勘三郎らをはじめ、俳句をやっていた役者は少なくない。彼らは俳号もちゃんともっていた。彌十郎の俳号は酔寿。暇を見つけては句会に熱心に足をはこんでいる。彼の亡き兄・吉弥もかつては俳句を嗜んでいた。初代吉右衛門や現幸四郎の俳句もよく知られている。彌十郎には他に「街灯の下のみ激し春の雪」がある。『かいぶつ句集』42号(2008)所収。(八木忠栄)




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